-膀胱がんの動注化学・放射線治療併用による膀胱温存療法-


膀胱がんの動注化学・放射線治療併用による膀胱温存療法

膀胱がんと治療法

膀胱がんは膀胱の内側の上皮(粘膜)に発生するがんで、表在性膀胱がんと浸潤性膀胱がんの二つに大きく分けられます。進行するに従って外側へ向かって膀胱壁(粘膜・粘膜下層・筋層)の中に深く浸潤していきます。がんの浸潤が粘膜下層にまでとどまっているのが表在性膀胱がんで、筋層まで届き、それ以上に広がっているのが浸潤性膀胱がんです

膀胱がんの予後は、表在性膀胱がんと浸潤性膀胱がんではまったく異なります。前者の5年生存率は90パーセント以上と非常に高いのに、後者は40パーセント以下と半分にも満たないです。

加えて、表在性膀胱がんは尿道から膀胱鏡を膀胱へ挿入し、電気メスで腫瘍を切除する手術の経尿道的膀胱腫瘍切除術(=TUR-Bt)によって治癒し、膀胱を全摘することはありませんが、浸潤性膀胱がんは開腹手術で膀胱を全摘しなければなりません。膀胱をとられたうえに治癒も難しいというのが浸潤性膀胱がんで、患者さんにとっては二重の苦しみを負うため、この苦しみをなくす新たな治療法が切実に求められてきました。

もちろん、近年の尿路変更術の進歩によって、膀胱を全摘した患者の排尿に関するQOL(生活の質)はかなり改善したものの、体に備わった膀胱を失うという事実は変わりません。

そこで今、筑波大学付属病院で試みられている動注化学・放射線治療による膀胱温存療法は、本来の膀胱・排尿機能を残しながら治癒も得たいという患者の声に応えた、画期的治療法といえるでしょう。


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膀胱温存療法の適応対象者

浸潤性膀胱がんは進行の程度によって、T2、T3、T4の3種類に大きく分けられます。少し専門的になりますが、T2はがんの浸潤が筋層にとどまるもので、T3は膀胱の周囲の脂肪組織へ浸潤しているもの、さらにT4は前立腺・子宮や骨盤壁など隣接臓器へ浸潤しているものです。

このうち膀胱温存療法の対象となるのはT2、T3の、リンパ節転移や遠隔臓器転移の認められない浸潤性膀胱がんです。浸潤の程度やリンパ節転移の有無などは、生検やCT、MRI等の画像検査で確かめます。

注意すべきはT2、T3の浸潤性膀胱がんのすべてが膀胱温存療法の対象となるわけではないことです。腫瘍の数や大きさなどをはじめ、経尿道的膀胱腫瘍切除術(=TUR-Bt)で切除した患部の組織から、がんの悪性度などを見るなど総合的に判断し、最終的に膀胱温存療法の対象となるか否かを決定します。

浸潤性膀胱がんは腫瘍の数が1個、すなわち単発のケースが多いようで、腫瘍の数が増えるほど、また腫瘍のサイズが大きいほど再発の危険性は高くなります。いままでの経験と研究から、膀胱内の再発の危険性は腫瘍の数が2個以上のときは単発のときより約43倍、腫瘍の大きさが3センチ以上のときは3センチ未満のときより約6倍高まることが明らかにされています。

そうしたリスクファクターなどを勘案し、膀胱温存療法を行っても再発の恐れが少ない浸潤性膀胱がんを対象に膀胱温存療法を行っているのです。

動注化学・放射線治療併用による膀胱温存療法

動注化学・放射線治療併用による膀胱温存療法は、

1.経尿道的腫瘍切除術(TUR-Bt)

2.抗がん剤の動注化学療法+放射線治療

3.陽子線治療

の3段階の治療ステップで進みます。

最初のステップは膀胱鏡を尿道から膀胱へ挿し入れ、がん病巣を電気メスで切除します。肉眼で確認できた腫瘍はすべて切除できることもありますが、腫瘍を切除できず残してしまうこともあります。

2番目のステップは動注化学療法と放射線治療を同時併用する治療で、まず細い管(カテーテル)を太股の大腿動脈から挿入し内腸骨動脈まで進入させ、抗がん剤(メソトレキセート+シスプラチン)を投与します。これが動注化学療法です。

直接、腫瘍に高濃度の抗がん剤を投与するため、がんに対する殺傷力が増強します。しかも、全身に潜んでいるかもしれない、目に見えない小さながんの転移も十分に叩ける濃度と量(体表面積1平方メートルあたりメソトレキセート30ミリグラム、シスプラチン50ミリグラム)の抗がん剤を投与しますが、静脈から点滴投与する通常の方法と比べ副作用は軽くすみます。

動注化学療法は3週間ごとに3回行います。

放射線治療は、第1回目の動注化学療法の翌日から1回=1.8グレイを、膀胱の存在する骨盤の奥(小骨盤腔)に照射します。通常の体外照射で週5回、計23回=41.4グレイを当てます。

動注化学・放射線治療が終わった段階で、がんが存在したところの組織を膀胱鏡で取り、顕微鏡でがん細胞の有無を確かめます。がん細胞のないことが確認されたら次のステップの陽子線治療に進みますが、がん細胞が確認されたときは手術による膀胱全摘に切り替えます。

アメリカ等の研究では、浸潤性膀胱がん(T2、T3)の30パーセント前後は、静脈投与の抗がん剤治療のみで消失することが判明しています。

しかし、動注化学療法に放射線を加えると、腫瘍の消失率が90パーセント程度へ飛躍的に高まります。実際、筑波大学の動注化学・放射線治療では、93パーセントの浸潤性膀胱がんが消失し、ほとんどの患者が次のステップの陽子線治療に進んでいます。

陽子線治療

第3段階の陽子線治療は、腫瘍が存在したところに追加照射(ブースト)します。膀胱がんの再発防止をより確実なものにするためで、あらかじめ患部の周辺にマーカーとなる金属粒子を膀胱鏡で埋めこみ、照射範囲を厳密に絞りこんで陽子線を照射します。

もともと陽子線は人体の中でその破壊エネルギーがもっとも大きくなるピーク(ブラッグピーク)の位置を調節できるため、患部のみに放射線を集中的に照射し、その周りの正常組織への放射線障害を極力減らせるところに大きな特長があります。1回3グレイ相当を週5回、計11回=33グレイ相当を当てます。

膀胱温存療法はすべて完了するのに約3カ月間を要します。膀胱を全摘する手術の入院期間は2~3週間なので、その約4倍の入院期間を必要とすりますが、それに十分見合う生活の質(QOL)が保障されます。

(注意)陽子線治療の設備は、筑波を含んで全国で10箇所ほどしかありませんので、ほとんどの病院では陽子線治療はできません。

また陽子線治療は高度先進医療のため、治療費は全額患者さんの負担になります。費用はだいたい200万円以上になります。


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関係医療機関

筑波大学付属病院

四国がんセンター

北海道大学付属病院


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の治療ガイド

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