-補中益気湯(ほちゅうえっきとう)-


補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の効能

体力虚弱で、疲労倦怠が著しく、胃腸が衰え食欲も減退、手足がだるく、汗をかきやすく、温かい食物を好み、言語も眼の勢いも衰え微熱や動悸、頭痛、脈にも腹にも力のない人に用います。病後や術後、産後の疲労、夏やせ、ED(勃起障害)、食欲不振、胃下垂、低血圧、貧血、などに応用します。体力不足で、胃腸のはたらきが衰え、疲労感が強い人に使われます。体力の回復をはかり、腹圧性尿失禁に有効です。


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補中益気湯(ほちゅうえっきとうの解説

インフルエンザに対する補中益気湯の効果

最近のインフルエンザは、新型の登場で今や一年中警戒しなくてはならない感染症になりました。もっとも、空気の乾燥する冬場はさらに感染しやすい環境になりますし、季節性のインフルエンザも脅威になります。

インフルエンザはウイルス感染によって起こります。ウイルスは細菌と違って、生物と無生物の中間的な存在です。空気中に存在するときは、ホコリや砂粒と同じ生命力を持たない無生物なのですが、生命体の細胞に取り付くや微生物や細菌のように活動し始め、細胞内に侵入してものすごい勢いで増殖を始めます。

こうしてインフルエンザが発症しますと、体内の免疫力が総動員でこのウイルス増殖に対抗するために高熱が出るわけです。いずれにしても、最後は体に備わったウイルスに対する免疫力でしか、インフルエンザを治す手段はありません。

インフルエンザのウイルスは、細胞の外にいるときは無生物なのでこれを抑制する手段はありません。体内に入り込んだ場合にも、これを抑制する薬はまだないのです。インフルエンザにかかって病院にいくとタミフルやリレンザが処方されますが、これは細胞内でのウイルス増殖を抑える薬で、増殖を止めることによって治癒を早めることができます。ただし、発症後48時間以内に服用しないと、ウイルスの増殖を止められず効果を発揮することができません。

予防の方法として免疫力を人工的に作るワクチン療法があります。いざウイルスが体内に侵入したとき、これを無力化するのがワクチンの役目で、現代医学的な観点から防ぐ方法としては、現在最も合理的な手段といえるかもしれません。

ただしワクチンは、ウイルスごとに通用したりしなかったりという欠点があります。新型用のワクチンの準備はできましたが、これは季節性インフルエンザには役に立ちません。季節性にも多くのタイプがあって、それぞれのウイルスに対しては個別のワクチンが必要ですから、合理的でありながら効率的とはいえないのです。

インフルエンザを予防、治療する免疫力

体内に侵入したウイルスを抑えこむ決定的な治療法がない以上、インフルエンザにかからないようにする一番いい方法は、水際でウイルスの侵入を防ぐ以外にありません。手洗い、うがい、マスクが大切といわれるのはそのためです。しかし、こうした手段にも限界があります。

そこで、最も確実で信頼できる予防法は、その人が本来持っている免疫力を強化することなのです。それによってウイルスを体の表面、つまり皮膚や粘膜のところでブロックする、またはたとえ皮膚や粘膜を突破されたとしても、体内の中で増殖する前にウイルスを抑え込んでしまうことです。

このような免疫力を高める予防法は、残念ながら現代医学にはありません。しかし漢方が最も得意とするのが、この免疫力の強化なのです。免疫力を強化すれば、ウイルスのタイプがなんであっても有効ですし、タミフルのようにウイルスが耐性化することもありません。

免疫力を高める補中益気湯(とうきほちゅうえっきとう)

漢方はどのように免疫力を上げるのでしょうか。東洋医学には「衛気」(えき)という言葉があります。食事と呼吸から生産される「気」のことで、外邪(ウイルス)を体の表層(皮膚や口腔粘膜)で食い止め、排除する働きをするのが衛気なのです。現代医学的に言い換えますと、白血球やキラー細胞などの免疫機能を指しているのかもしれませんが、この免疫機能を担って表層を守るのが衛気なのだと説いています。

衛気を充実させる生薬が黄耆(おうぎ)人参(にんじん)です。生体機能を支える正気を表層まで導く生薬が柴胡(さいこ)升麻(しょうま)です。補気といって正気の補充を図るとされる生薬が白朮(びゃくじゅつ)炙甘草(しゃかんぞう)大棗(たいそう)、そして人参です。

これらの生薬に加えて利尿作用のある陳皮(ちんぴ)生姜(しょうきょう)で、補血、活血作用のある当帰(とうき)の10種を組み合わせた処方が「補中益気湯」(とうきほちゅうえっきとう)です。

各生薬の用量は、黄耆、白朮、人参各4g、当帰3g、柴胡、大棗、陳皮各2g、炙甘草1.5g、升麻1g、生姜2gです。

胃腸を補い、活力を増し、疲労を回復する補剤の王者といわれ、漢方の中でも最も有名な処方の一つです。1日1~2回、補中益気湯のエキス剤を服用することによって、インフルエンザに対する免疫力は大幅に向上します。

補中益気湯(とうきほちゅうえっきとう)の重要生薬、柴胡、人参、白朮

補中益気湯は柴胡の使用を2gしたのが、この処方の優れたところです。というのは、柴胡は解熱と消炎のために6~8g使うのが普通ですが、気を上げて表層まで導くために使う柴胡は2gに抑えなくてはなりません。柴胡の量を多くすると全く異なる作用を導き出すからです。

そしてたった2gしか使わないということは、柴胡の品質が補中益気湯の効果に大きく影響を及ぼすことを意味します。本来、柴胡はミシマサイコが最も高品質とされていたのですが、現在では北柴胡がそれにとってかわりました。最もたくさん流通しているのが韓国産の植柴胡ですが、北柴胡は植柴胡の2倍の活性があります。

もう一つのポイントになる生薬が白朮です。これはキク科のオケラという植物の根で、利水作用の薬物として使われます。ところが、白朮にはオオバナオケラという別の種類のものもあり、これには人参と同じぐらいの消化機能促進作用があります。つまり、消化機能を強くすることによって体内の水を調整する働きのある白朮で、日本産のオケラと異なり、中国の浙江省と湖北省の一部でしか産出しません。値段もオケラの数倍する生薬です。

そして人参は昔から珍重されてきました。日本で販売されている薬用人参は600gで2万円前後までですが、台湾では値段の幅が大きく、安い物は1万円から、高い物では10数万円まであります。

現在、漢方薬はエキス剤といって成分を抽出し顆粒状にしたものが一般的ですが、補中益気湯のような補気薬はエキス剤では効かないと批判されることが多くなりました。

それは各生薬の品質に、大きな原因があります。産地や加工法で生薬の品質はまちまちですが、この点に注意さえすれば補気薬もエキス剤で十分効果があります。

適応される主な症状

  • 頻尿
  • 食欲不振
  • 疲労倦怠
  • ED(勃起障害)
  • 低血圧

配合生薬

配合生薬の効能

人参(にんじん)

漢方治療において最も繁用される有名生薬の一つで、古くから高貴な万能薬としてよく知られています。漢方では強壮や胃腸衰弱、消化不良、嘔吐、下痢、食欲不振などの改善を目標に幅広く処方されます。

この生薬の特異成分であるダマラン系サポニン(主としてギンセノシドRb、Rg群)は動物実験で、強制運動に対する疲労防止、および疲労回復、抗ストレス作用、ストレス潰瘍防止、免疫活性およびアンチエイジングなどを示し、各種機能の低下を抑制する作用が認められています。

その他、抗炎症、抗悪性腫瘍、肝機能改善作用、血糖降下作用、血中コレステロールおよび中性脂肪の低下作用なども確認されています。また、記憶障害改善(抗痴呆)効果が示唆されています。

蒼朮(そうじゅつ)

朮は体内の水分代謝を正常に保つ作用があり、健胃利尿剤として利用されています。特に胃弱体質の人の下痢によく効き、胃アトニーや慢性胃腸病で、腹が張るとか、冷えによる腹痛を起こした場合などにもいいです。

日本では調製法の違いによって白朮(びやくじゅつ)と蒼朮(そうじゅつ)に分けられます。いずれも同じような効能を示しますが、蒼朮は胃に力のある人の胃腸薬として使い分けられています。

両者の主成分は、精油成分のアトラクチロンと、アトラクチロジンです。ちなみに、白朮には止汗作用があるのに対して、蒼朮は発汗作用を示します。朮は漢方治療では、多くの処方に広く利用される生薬の一つです。

黄耆(おうぎ)

強壮、利尿効果がある他、免疫活性、抗炎症、抗アレルギー、血圧降下作用が認められています。単独で使われることはあまりなく、漢方では補気(益気)薬として配合される重要生薬です。たとえば、疲れ気味で、汗をかく虚弱体質の人によく適用される処方として黄耆建中湯(おうぎけんちゆうとう)があります。

有効成分ホルモノネチンは抗酸化作用を有し、アストラガロサイドや、ソヤサポニンに抗炎症作用が認められています。

また、黄耆の抽出工キスに動物実験で肝障害予防、末梢血管拡張作用、インターフェロン誘起作用などが確認され、黄耆の効能が裏付けられています。

当帰(とうき)

婦人病の妙薬として、漢方でひんぱんに処方される重要生薬の一つです。漢方では古来、駆お血(血流停滞の改善)、強壮、鎮痛、鎮静薬として、貧血、腰痛、身体疼痛、生理痛生理不順、その他更年期障害に適用されています。

茎葉の乾燥品は、ひびやしもやけ、肌荒れなどに薬湯料として利用されています。鎮静作用はリグスチライド、ブチリデンフタライド、セダン酸ラクトン、サフロールなどの精油成分によります。また有効成分アセチレン系のファルカリンジオールに鎮痛作用があります。

駆お血効果を裏付ける成分として、血液凝固阻害作用を示すアデノシンが豊富に含まれています。また、アラビノガラクタンなどの多糖体に免疫活性作用や抗腫瘍作用が認められ、抗ガン剤としての期待も、もたれています。

陳皮(ちんぴ)

陳皮はミカンの皮を、天日乾燥させた物です。リモネン、テルピネオールといった芳香性のある精油成分を豊富に含んでいるため、胃液分泌促進作用、胃運動亢進作用や抗炎症、抗アレルギー作用があります。漢方では、芳香性健胃薬や駆風(腸管にたまったガスを排出)、食欲増進、吐き気止めなどを目標に処方されます。

また、精油成分には一般に発汗作用があり、初期の風邪などに効果があります。入浴剤として利用すると血行をよくし、肌を滑らかにします。

大棗(たいそう)

大棗は滋養強壮、健胃消化、鎮痛鎮痙、精神神経用薬として、多くの漢方処方に配合されています。

含有サポニンのジジフスサポニンによる抗ストレス作用があり、アルカロイド成分リシカミンのおよびノルヌシフェリンなどによる睡眠延長作用、多糖体ジジフスアラビナンによる免疫活性などが報告されています。

その他、サイクリックAMP(環状アデノシン一リン酸)があります、サイクリックAMPは脂肪組織を構成する中性脂肪の分解を促します。また、含有成分フルクトピラノサイドには抗アレルギー作用が認められています。

柴胡(さいこ)

柴胡は漢方治療で解熱、消炎、鎮静、鎮痛薬として多用される重要生薬の一つです。主成分としてサイコサポニンA~Fなどのサポニンを豊富に含み、動物実験で上記薬効を裏付ける多くのデータが報告されている他、臨床的に肝機能障害の改善作用が認められています。

漢方では主として胸脇苦満、風邪、咽頭の痛み、気管支炎、肺炎などで炎症熱のあるもの抗炎症などを目標に慢性肝炎、慢性腎炎などに処方されます。

一時柴胡を配合した漢方薬が、一部の肝機能障害患者で副作用と思われる症状を示し、問題になつたことがありますので、他の医薬品と併用する場合は医師とよく相談してください。

甘草(かんぞう)

甘草は漢方治療で緩和、解毒を目的として、いろいろな症状に応用されますが、主として去痰、鎮咳、鎮痛、鎮痙、消炎などです。

有効成分のグリチルリチンには、痰を薄めて排除する作用があり、体内で分解するとグリチルレチン酸となって咳を止めます。

その他、グリチルリチンには多種多様の薬理効果が有り、消炎、抗潰瘍、抗アレルギー作用の他、免疫活性や、肝細胞膜の安定化、肝保護作用、肝障害抑制作用などが明らかにされています。

有効成分イソリクイリチンおよびイソリクイリチゲニンは糖尿病合併症の眼病治療薬として、また胃酸分泌抑制作用もあり胃潰瘍の治療薬として期待されています。

甘草はあまり長期服用しますと、低カリウム血症、血圧上昇、浮腫、体重増加などの副作用が現れることがあるので、注意を要します。

升麻(しょうま)

升麻には鎮痛作用、鎮静・鎮痙作用、肛門部潰瘍抑制作用、抗炎症作用、解熱作用、肝障害改善作用などがあります。漢方では脱肛、子宮脱、発疹性熱性疾患などの治療に他剤と配合して用いられてきました

升麻の有効成分には、フェノールカルボン酸のほかトリテルペン化合物のシミゲノール、タンニンなどが含まれています。

民間療法では扁桃炎や口中の腫物に升麻の煎液でうがいをしたり、湿疹やかぶれにはこの煎液を冷やして湿布する、などが伝えられています。

生姜(しょうきょう)

生姜は優れた殺菌作用と健胃効果、血液循環の改善効果、発汗と解熱効果があります。漢方では芳香性健胃、矯味矯臭、食欲増進剤の他、解熱鎮痛薬、風邪薬、鎮吐薬として利用されています。

辛味成分のショウガオールやジンゲロールなどに解熱鎮痛作用、中枢神経系を介する胃運動抑制作用、腸蠕動運動充進作用などが有ります。そう他、炎症や痛みの原因物資プロスタグランジンの生合成阻害作用などが認められています。


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漢方薬の使用上の注意

漢方薬の副作用


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